Q’s diary

生焼けの随想

一般記事

対岸から来た書物

過酷なソ連の強制収容所で20年を過ごしたVarlam Shalamov、36歳で爆殺されるまでパレスチナ解放闘争に人生を捧げたGhassan Kanafani、遺作"Suicide"の原稿を出版社に送った10日後に自殺したÉdouard Levé、心の病と薬物に苛まれて生きたAnna Kavan、そうした…

意識の車窓

毎日、私たちはいろいろなものを見て、感じて、考える。「走馬灯」という言葉があるが、日常生活も長く続く走馬灯、あるいは旅の車窓のようなものだ。そして、その車窓を見ている乗客は私たち自身だけではない。私たちのアイデア、創造性、心、そうしたもの…

生きること

鳥たちが、虫たちが、草木が、生命力を弾けさせている。命の奔流。生きるということは、このくらい烈しい熱量の爆発だということを教えられる。 生きるとはどういうことなのかを知りたければ、殺してみるがよい。一寸の虫がいかに激しく足掻くことか。しかし…

悪徳としての反省

「反省します」だれかがそう言うのを聞くたびに、いったいそれはどういう意味だろうかといつも不思議だった。たとえばこれを翻訳しようと思ったら、何と訳せばいいのだろうか。ぴったりと対応する訳語がないだけならまだしも、そもそも語義すらわからないこ…

許してはいけない

許しなさい、それが美徳だ、とよく教えられる。本当は許したくなくても、相手が謝ってきたなら許してあげなくてはいけないのだという。そうしないことは心の狭さだという。しかし、本当にそうなのだろうか。そもそも、許すとはどういう意味なのか。果たして…

Calling

"Calling"という言葉がある。世俗的な言葉では職業とかキャリアの意味に近いが、単にそれだけではなく、与えられた使命というような意味を持つ。 Callingは目先の承認のために骨を折ることとは違う。みんなにちやほやされて人気者になったとしても、かりそめ…

諦めたときが人生のはじまり

あなたはずっとがんばってきた。すべてができるという幻想を抱いてがんばってきた。100点を取っても、賞をもらっても、十分ではなかった。埋められない穴があった。がんばって、がんばって、その末にどこまでも自己を破壊をしてきた。 あなたはずっとがんば…

何者にもならないための3つの方法

人生、何者かにならなくてはいけないわけではないが、でもなりたい人は少なくない。私も、きっとあなたもそうだろう。 何者にもなりたくない、がんばる気がない、という人は別にどうでもいい。しかしどうもがんばっているように見えるのに、何の成果にもつな…

水を注ぐ

飲食店でご飯を食べているとき、水を継ぎ足してくれるタイミングに注意を払ってみてほしい。ごく普通の店、気が利かないなと思う店、そして不思議とぴったりほしい瞬間に足してくれて、もういらないと感じたらなぜか声もかけてこない店がある。きっと、よく…

孤独はあなたを自由にする

自分は宇宙人のようだ、という人にときどき出会う。わかるなあ、と思っていた。でもしばしば、なんだかちょっとその人とは感覚が違う気がしていた。そういう人は、だいたいは「(発達特性等に起因して)頭の中の作りが実は他の人と違うから深いところでわか…

四角い権利を丸く使え

「ルール上は許されていても本来想定されていないような行為をすることは長期的に自由の敵だ」というような信念がある。それは、あまりに多数派の傲慢であり、はるかに直接的に自由を奪うものだと思う。たしかに一理ある場合もあるかもしれないが、そうやっ…

努力は二十歳になってから

「酒、タバコ、努力は二十歳になってから。未成年の健全な発達を害する恐れがあります。」そんな標語を思いついた。 むやみに努力している人は苦手だ。接するときにはつい身構えてしまう。努力は文字通り「頑張る」ことだから、人を頑なにしてしまう。謙虚さ…

優しさと愛

やさしさとはなんだろうと、このごろ考えている。 考えているだけでは仕方がないので、本を読むことにした。『やさしさの精神病理』という1995年に出版された精神科医による著作だ。近年の若者の間で「やさしさ」が変容しつつあるという。従来のいわば「ホッ…

知的疎外と大学院進学

大学院に行く理由は就職したくないからなのか、というような話題が目に入った。この話題は表面的には簡単なようで、実はもっと大きな問題につながっている。結論としては、「就職」そのものがいやなのではなくて、仮にきつかったとしても「自らの知的生産か…

指摘と学び

文章を読んで、あるいはプレゼンテーションを聞いて、なにか改善点をアドバイスするとする。傾向として言えば、より大枠についての指摘のほうが上級者しかできない。つまり、細部の言葉遣いやスライドの作りについて指摘するのは初級者、議論の一段階の妥当…

悪意

とある草の根の活動をするコミュニティに関わっていました。そこで、紛れ込んだやばい人間が他の人たちを消耗させ、苛立たせ、分断し、ものの数年で活動を壊滅に追い込んだのを見ました。人間はこれほどの厄災になりうるのだということに驚嘆してしまいまし…

他人の夢

ある程度の歳になってくると、人生で選ばなかった選択肢が積みあがる。そのなかにはけっこう魅力的で、選ばなくて後悔しているというほどではないにせよ、もう一つ別の人生を送れるならぜひ選びたいなと思うものも増えてくる。 そんな人が若者に話をする。「…

もう少し若いうちに知りたかったこと

他人に当たり障りなく減点要素のないように接するのではなくて、不器用でも本心でぶつかっていくべき大事な場面がときどき訪れること。そのときにうっかり相手を斬りつけてしまうことを覚悟しなくては、踏み込みすぎて傷つけてしまうことを覚悟しなくては、…

KEEP OUT

街を歩いていても、オフィスビルでも、駅でも、店に入っても、どこに行っても「関係者以外立入禁止」のサインを目にする。その度に考える。ここには何があるのだろう、もし関係者だったら何を知ることができるのだろうと。 世界のだいたいの場所は自由にアク…

考えない力

考える力が大事とよく言われる。たぶん、「考えない力」も同じくらい大切だ。 「考えない力」は、「考える力」と表裏一体だ。「考えない力」に乏しいのに、しっかりした「考える力」を持つ人はいないだろう。「下手の考え休むに似たり」というが、下手は休む…

約束は嘘の味がする

あることに誘われたけどちょっと気乗りがしなくて、その日は大事な予定があると嘘をついて逃れる。嘘をついたから、その日はうっかりインスタに矛盾する内容を投稿するわけにはいかない。他の人に週末の予定を話すときも、嘘をついた相手につながる可能性が…

特権への罪悪感

地域格差、経済格差、教育格差、文化資本、諸々の生得的属性といった要因がある人々を不利な状況に置き、ある人々には「特権」を与えている。そんな話をネットで見ない日はなかなかない。私自身、困難もあったにせよ、いくつかの面で利益を受けてきた。そう…

矛盾は矛盾じゃない

あれとこれが矛盾してるじゃん! って思うことは珍しくはない。でも、突き詰めていくと何事かが本当に純粋な意味で矛盾していることはないのだと思う。何か前提を置いているから、矛盾していると感じてしまうだけ。その前提を、ちゃんと考え直す必要がある。…

日本に留学しよう

親戚の葬儀に出る。地元の名士とでも言うべき人物で、ずいぶんたくさんの人々が参列していた。代々檀家をしている寺で、一族に顔なじみらしい僧侶が読経をはじめる。その声が響き渡る本堂で、そっと薄眼を開けながら考えることがある。わたしは一生のうちに…

不在の在

よい教育は、卒業して終わるものではなくて、むしろ卒業を始まりにして一生続くもの。それが、「学び方を学ぶ、学ぶ姿勢を学ぶ」という言葉の意味。 よい本は、読み終わって情報を得ておしまいではなくて、むしろその後の人生で経験することの意味を変える。…

想像力の先へ

社会で他人が不愉快な振る舞いなんかをしていたときに「とてもつらいことがあったり、特別な事情があったのかもしれないじゃん。そういう想像力が大事だよ。」みたいな言説、とてもよくあるもの。昔は好きだったけどなんだか浅く感じる。子どもだましでしか…

This is (no longer) water: 心が変わってしまうこと

私たちは、物事を考えるとき、「自分の心が変わる」ということを忘れてしまいがちに思います。それはきっと、自分=世界の中心という揺るがしがたい直感があるから。そして世界の中心はすなわち不動だからなのでしょう。 だから、物事の因果関係を考えるとき…

それでも葡萄はすっぱい

The fox who longed for grapes, beholds with pain The tempting clusters were too high to gain; Grieved in his heart he forced a careless smile, And cried, ‘They’re sharp and hardly worth my while.’ 1 金、肩書、名誉、人間関係、どんなことにし…

ごはんにふりかけ

人生はね、ごはんにふりかけなんだよ。 人生は、カラフルで味の濃いふりかけ部分が本体なんじゃない。単調な白米の部分が本体。 白米が食べられるというだけで、雑穀や玄米しか食べられなかった時代に比べたら贅沢だよね。ありがたく思うべき。でもそんなの…

少しの成長

むかしずいぶん長く関わっていた人たちの集まりがあることを間接的に耳にした。直接は何も知らされていなかった。心がざわざわした。こういうことはたまにある。またか、と思いながら、いいよどうせ馴染めてなかったし、あんまり好きじゃないし、これでいい…