あなたはずっとがんばってきた。すべてができるという幻想を抱いてがんばってきた。100点を取っても、賞をもらっても、十分ではなかった。埋められない穴があった。がんばって、がんばって、その末にどこまでも自己を破壊をしてきた。
あなたはずっとがんばってきた。他人が期待を投影した人物像をあなた自身だと勘違いしてきた。有名な大学に入って、輝かしいキャリアを得て、あるいは結婚して、自分が何をしたかったのかがもはやわからなくなった。そうすることで誰かに認められようと、誰かに愛されようとしてきた。あなたではない人間になろうとしてきた。
あなたはずっとがんばってきた。自分の本当の姿を直視するのは辛かったから、偽りの自分像を作ってきた。自分を否定するために毎日を生きていた。朝起きたとき、自分が自分であることを呪った。
そうやってがんばって生きてきたから、ついにけがをしてしまった。それなのになかなか休むことができなかった。骨折をしたり、大きな傷口から出血していれば休めるのに、それと同じくらい負傷しているのに、その傷は目に見えないから、休めなかった。無理をしてきたのだということを受け入れられなかった。
だからなおもあなたはがんばろうとした。棘に向けて突進して全身に刺さったのに、後ろに下がるのではなくさらに進めば抜けると勘違いしていた。できないことをやろうとするのは本当の意味でのがんばりではない。それは実際の成果をむしろ損ねるのだから。
そうして何もできなくなってしまったかもしれない。やらなくてはいけないのにという罪悪感に苛まれながらも、動けないままだった。毎日が無為に過ぎていった。すべてを忘れてあっけらかんと遊び回れればいいものを、そうすることもできなかった。重圧に耐えるだけで精一杯になってしまった。
次にしなくてはいけないのは、もっとがんばることではない。必要なのは手放すことだ。できないということをついに認めることだ。膨らませ続けた他人の期待と偽りの自己像から空気を抜くことだ。いままで生きてきた日々は、現実を生きていたわけではなかった。これからは、ありのままの自分を見つめて、冷静にいまの手札で勝負するしかない。そのときようやく、人生がはじまる。