心はナマモノ

私たちは、ナマモノです。ざっくり言ってしまえば、単なる肉のかたまりです。常温に放置された肉のかたまりです。考えてみてください、これってすごいことだと思いませんか? 肉を冷凍庫にしまい忘れて常温で放置していたら、数日のうちに腐って、臭くてたまらなくて、もちろん食べられたものではありません。なのに私たちは、こんなにあたたかい体温を持っていて、水に濡れたり、暑いところに滞在したりするのに、腐ることがありません。それは、私たちの身体がたくさんのエネルギーを消費しながら、この肉を維持しているからです。起きているときも、寝ているときも、ひとときも休むことなく。

気づいてほしいのは、心もまたナマモノだということです。私たちは、心というものを考えるとき、ともすると世界を見る始点としての心ばかりを考えてしまいます。まるでガラスでできているみたいに、透明で不変かのように捉えてしまいます。でも本当は、心は周囲から作用を受ける、柔らかいナマモノなのです。カタチとか、柔らかさとか、いろいろな状態があって、それによって同じできごとでも心の反応が違ってくるのです。世界の見え方が違ってくるのです。

そして、心はナマモノだから、気をつけていないとすぐに腐ってしまいます。身体と違って、自分で意識的に維持しなくてはいけません。意欲、好奇心、優しさ、そういう心はとても繊細で、壊れやすくて、簡単に無力感や、冷笑や、無関心に取って代わられてしまいます。そうならないように、心を純真に保つために、心を悪い影響から遠ざけるようにする必要があります。世間の喧騒、くだらない他人の噂話、ネットの論争、恨みつらみばかりを吐く人、あるいはあなたを打ち負かそうとする人、あなたを比較の目盛りに乗せようとする人、あなたの好きなことをバカにする人……そういうものから遠ざけて、心を守ってあげなくてはいけません。

世の中では、どういうわけか、みずみずしい新鮮な心を持っていることが、未熟さの証であるように思われています。まるで、大人になるためには、心が劣化する必要があるかのようです。そういう声に惑わされてはいけません。美しい花や、たくさんの実をつけてほしい植物を、わざわざ病気にするでしょうか。枯れてしまった花が、豊かに実ることはありません。同じように、あなたの心も、悪いものを知る必要はありません。知ったら、染まってしまうからです。一度悪い影響を受けたら、再び美しくなることはひどくむずかしいのです。どうか、純真でいてください。