弱さをアイデンティティにしてはいけない

強いものは魅力的だ。ライオンや恐竜のように。一方、弱いものにも不思議な魅力がある。特に、その弱さが相手と共有されるときの引力はとても強い。けれどその引力には吸い込まれないように気をつけなくてはいけない。

ネットには、弱さを看板にしている人たちがいる。弱さをプライドにしている人たちがいる。そうすることでアイデンティティを築くことができる。そうすることで人と繋がることができる。似たような弱さを持つ者同士は不思議なほど引き付け合う。弱みを開示することで、相手との距離を一気に詰めることができる。

ときにはそうすることも必要なのかもしれない。だけど、それは危険だ。弱さをアイデンティティにすると抜け出せなくなる。あなたの「弱さ」が、永遠にあなたの人生の支配者であり続けてしまう。


生きていると、人は変化していくものだ。そして自分の何らかの意味での「弱さ」が薄れていったとき、違和感を覚えることがある。とりわけその「弱さ」が深刻で、長年抱えていたものであるほどそうだ。かつて嫌いだったマジョリティ、苦手だったマジョリティにいまや溶け込めるようになってきたことに嫌悪感を持ってしまう。なぜかそこに乗っかってはいけない気がしてしまう。後ろめたく思ってしまう。救われることに罪悪感を覚えてしまう。自分はする資格がないと思っていたことにも今や手が届く位置にいるのに、手を伸ばしてはいけないと思ってしまう。

でも、人は変化していいのだ。自己に過剰な一貫性を求めてはいけない。自分の過去にアイデンティティを固定してはいけない。あなたは、あなたの過去を克服しようとしているのだ。でもそれは、少しも「あなたらしさ」を損なうことではない。

あなたはインスタ映えするカフェに行って、それっぽいハッシュタグをつけて投稿してもいいのだ。あなたは飲み会で騒いで酔いつぶれてもいいのだ。あなたは新しい仲間たちと海水浴やバーベキューやキャンプに行ってもいいのだ。あなたはオシャレになっていいのだ。あなたはカッコよくなっていいのだ。あなたは若者っぽいことをしてもいいし、大人っぽいことをしてもいいのだ。ちょっと奮発して、高級なレストランに行ってもいいし、日本人でごった返すハワイへ旅行に行ってもいいのだ。あなたは恋愛をしてもいいし、結婚をしてもいいのだ。つまるところあなたは、幸せになっていいのだ。

もちろん、それらのことをしないといけないわけではない。でも、今までさんざん軽薄だとか、無為だとか、空虚だとか、ばかげているとか、チャラいとか、さまざまな言葉で軽蔑してきたことを、いまや素直にやってみてもいいのだ。過去のあなたの考えがルサンチマンから来ていたことを認めてもいいし、単純になかったことにしてもいいのだ。とにかく、自分で自分にかけた呪いを解くのだ。やりたいことはやっていいのだ。これまでに積み重ねた論理武装を解除するのだ。だって、そんなことであなたを責めるのは、あなた自身以外にだれもいないではないか。幸せになることを禁じるのをやめよ。それがいかに凡庸な姿をしていようとも。

あなたの価値は、あなたがマイノリティであることに由来するのではない。「ふつう」になることは、あなたの価値を損なわない。あなたは変化する。そして変化したら、ときにはマジョリティの領域に足を踏み入れることだってある。別にマジョリティになる「ために」そうしたわけじゃなくても。だってマジョリティの空間の方が広いのだから、そういうことだってありえるではないか。変わることは、過去の否定ではない。変わることは、過去があってこそできることだ。


SNS、特にTwitterのつながりも、だんだんと移り変わっていくべきなのだ。あなたが過去に抱えていた弱みを共有する仲間と、いつまでも同じ関係でいる必要はないのだ。あなたは、その人たちを置き去りにしていい。そのことに、罪悪感を覚える必要はない。ただ、意図的に虐げることさえしないでおけばいい。

別にその人たちが劣っているというわけではない。人にはそれぞれのタイミングがあるし、そもそも克服しないといけないわけではない。でも、あなたにはあなたの人生の道筋がある。それは、他の人の人生とは違う。

かつての仲間は、かつてあなたが吐いていたのと同じ呪詛を吐き続けている。それはあなたの足を引っ張る声だ。耳を傾けてはいけない。あなたの中の一貫性を求める心がその呪詛に共鳴してしまう。

あなたはその人たちに付き合う義務はないのだ。その人たちに借りなどないからだ。変な義務感を持つな。あなたは、彼らの理解者である義務など負っていないのだ。見なさい、世間の人々なんて何も気にしていないじゃないか。あなたは望んでその境遇に至ったわけでもないのに、どういう論理で世間一般とは違う特別な責任を負っているのか? そんなの、あなたの勝手な思い込みだ。ただ一点、あなたはもうその人たちの理解者ではあれないことだけ、心の片隅にとめておけばいい。けっきょくあなたはその人たちを救うことなどできない。何を思い上がっているんだ。

あなたは優しい。だけど、優しすぎてはいけない。あなたは真面目だ。だけど、真面目すぎてはいけない。前に進んで、自分の人生を生きなさい。それは、あなたにしかできないことだから。