「日本すごい」は自己成就予言である

スーパーで、150円のスペイン産のニンニクと、300円の国産のニンニクが売っていた。前者は貧相な見た目をしていた。後者は丸々と太っていて、いかにもおいしそうだった。私は自分の貧乏生活を呪いながら、国産ニンニクに恨めしい目を向けつつ、スペインからやって来たニンニクを手に取った。

しかし、なぜこうじゃなきゃいけないのだろう? どうして、スペイン産の高級なニンニクはないのだろう? どうして、国産の廉価なニンニクはないのだろう? これがりんごとかなら日本で品種改良されていたりするしまだわかる。でも、ニンニクなんて日本よりもスペインの方が本場1に近いのではないか? 日本の人件費が高いから国産のはどうしても高価になってしまい、それゆえ高付加価値商品でしか勝負できないのか? しかし、たしかにスペインはEUの中で経済的に成功しているかというと微妙ではあるにせよ、日本だってこんなに長く経済が停滞しているのだし、輸入のコストだってあるわけだし、国産が必然的に高価になる理由は見出せない。そしてこういう構図はいつも同じではないか。食品にせよ、電気製品にせよ、だいたいにおいて「国産は高級」という扱いになっている。例外は西ヨーロッパを中心にしたごく限られたブランドを確立している自動車、時計、鞄くらいではないだろうか。

そして気づいた2。日本国内市場での「国産:高級、輸入品:割安」という構図は、「日本人がまさにそう信じている」というただ一点の理由によって維持されているのだ。つまり、「日本すごい」は自己成就予言であり、「日本人が『日本すごい』と思いこみ続ける限りにおいて日本はすごいし、すごくあり続ける」ということだ。正確にいうと日本人には日本がすごく見える、ということだが。

その理由は、国産であること、単にそれだけの事実によって消費者が高級な商品、付加価値を持つ商品であるとみなすことによって、企業は国産の商品の値段を吊り上げるインセンティブを持つからだ。価格を抑えるとかえってイメージを毀損するし、高くてもどうせ買うなら、そりゃあ値段を高くするだろう。もう少していねいに言うと、輸入品との競争において、低価格帯で勝負すると高級なイメージを活かせない、安さしか求めない消費者が多い価格帯になってしまうから相対的に不利であり、高価格帯で勝負するほうにシフトしていくのだ。他方、輸入品は高付加価値志向の消費者を対象とした価格帯ではたとえ品質がよくてもイメージの時点で不利になってしまうから、イメージがそれほど重要ではない低価格帯で勝負しようとする。

結果として、市場には高級な国産品と廉価な輸入品が出回ることになり、消費者が持っていたイメージはさらに強化される。この繰り返しには終わりがない。「日本すごい」はだれのプロパガンダでもないのだ。そういう広告戦略は企業が純粋に利潤を追求した結果だ。イメージで売る高付加価値商品は国産のものが多くなっていて、そういう商品を売るためには広告を打つから、結果として広告は日本すごい、だからこの商品すごい、というものになる。比較して中国すごいとかベトナムすごいとか言うインセンティブはないに等しい。低価格帯の商品は広告するよりもちょっとでも安いほうが売れるからだ。

だから、すでにちまたにあふれている日本すごい言説はこれからも強化され続けるだろう。でも、日本人がそんな夢想にひたっているあいだにも、他国は着実に技術を伸ばし、経済発展を続ける。いつ、膨らみすぎた日本すごい幻想がはじけるのだろうか。そのときが、日本社会の潮目となるのかもしれない3


  1. ニンニクの本場がどこなのかは知らないけど。

  2. きっとどこかで誰かがすでに同じことを書いていそうな気がするが、そういうものを見たわけじゃなく純粋にひらめいたので調べずに書く。

  3. そのとき、日本人は一気に外に目を向けるのかもしれない。本格的に内資の大企業が見放され、国内の教育の価値が下がり、猫も杓子も英語や中国語に走り、留学しようとする。これはある意味で韓国の現状に似ていたりする。自国の経済の小ささ、脆弱さをわかっているから、あんなにも外に出て行こうとするのだ。だから、20年くらいしたら海外の大学に日本人もたくさんいるようになっているのではないかなと思ったりする。極端に走りすぎることは健全なこととは思わないけど、今の日本人はさすがにのほほんとしすぎだろうと思ったりする。 たとえ若者であっても国が傾くかもしれないとかの危機感は薄くて、優秀な層であっても優秀であるからこそこのまま大企業で勝ち逃げできるだろうと思っているふしがあるように見える。ただ、「日本最低海外最高」出羽守をしたいわけではないことははっきりさせておく。けっきょく、どの国にしたって何があるかわからないのだ。その程度の意味で、世界のどこか違う場所に行っても生き延びられるようにしておくことは大切だと思う。